登記名義人住所変更の登記の中間省略(目次)
1.複数回の住所移転をしている場合
登記簿上の住所から複数回の住所移転をしている場合、その全ての住所移転の経緯が分かる住民票、戸籍の附票等を添付することで、直接現在の住所への登記名義人住所変更の登記をすることができる。そして、この場合の登記原因の日付は、最後の住所移転の日付である。
2.複数回の住所移転後に登記簿上の住所に戻った場合
自宅不動産を購入した後に、転勤により引越をし、その後、再び不動産所在地に戻ってきたような場合、登記簿上の住所と現在の住所とが同一であるのに登記名義人住所変更の登記をする必要があるのか。この場合、住所移転による登記名義人表示変更の登記は申請する必要がない。
登記簿上の住所と印鑑証明書の住所とが一致しているのだから、登記名義人住所変更登記の要否を検討する必要すらないようにも思えるが、住民票の記載から住所移転していることが判明してしまう場合などに、名変が必要であるかとの疑問が生じる。
3.共有者の住所移転の場合の申請人
登記簿上の住所が同一である共有者が、同時に同一の場所に住所移転した場合、その登記名義人表示変更登記は同一申請書により一括申請できる。しかし、その登記をする際には、共有者の全員が申請人となる。
たとえば、抵当権抹消登記の場合には、共有者の1人が登記権利者となり保存行為として申請が可能だが、登記名義人住所変更については共有者の全員が申請人になる必要があるということ。
登記簿上の住所が同一である共有者のA・Bが同時に同一の地に住所移転した場合における登記名義人の表示変更登記は、同一申請書により申請が認められているが、その申請人につき、A・Bいずれかの単独による申請によることはできない(登研440号)。
登記簿上の住所が同一(同一世帯)である場合、共有者の甲、乙、丙が区画整理に伴う町名地番変更により新住所に変更登記を申請する場合、共有者の1人からの登記申請代理の授権を受けるのみで、共有者全員の表示変更登記を申請することはできない(登研458号)。
4.登記原因が複数の場合
4-1.住居表示実施と住所移転があった場合
住所移転と、住居表示実施があった場合、登記名義人住所変更の登記は1件の申請により一括申請できる。この場合の登記原因は、「年月日住居表示実施」、「年月日住所移転」と併記する。
登記名義人の住所移転による変更と住居表示実施による変更の登記申請は、1個の申請によりすることができる(昭和40年10月11日民事甲2915)。
登記名義人の住所が住居表示及び住所移転により変更となった場合における登記名義人の表示の変更の登記の登記原因は、「年月日住居表示実施」、「年月日住所移転」と併記すべきである(登研370号)。
(2020/08/19 追記)
町名地番変更の後に住所移転している場合に、登記原因を「年月日町名地番変更」、「年月日住所移転」と併記して登記申請したところ、この場合の登記原因は「年月日住所移転」のみにすべきとの指摘がありました(千葉地方法務局松戸支局)。また、町名地番変更が後の場合には、登記原因を併記するとのことでした。
現在では、「4-6.住居表示実施→住所移転→住所移転があった場合」で引用している登研744号の質疑応答にあるとおり、すべて取り扱いが変更になっているのでしょうか。登記原因に「年月日町名地番変更」を入れても入れなくても、とくに問題は無いのでこれ以上は追求しませんが、少し釈然としません。
4-2.住所移転の後に区制施行などがあった場合
住所移転の後に、区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更が行われている場合の登記名義人住所変更の登記をするときには、登記原因を「平成○○年○○月○○日住所移転、平成○○年○○月○○日区制施行」とする。
4-3.住所に錯誤がある場合に、住所移転しているとき
登記名義人の住所に錯誤がある場合に、その後、住所移転をしているときの登記名義人住所変更の登記では、登記原因を「錯誤」及び「年月日住所移転」と併記する。
4-4.住所移転→住居表示実施→住所移転があった場合
登記名義人住所変更の登記原因が、「住所移転 → 住居表示実施 → 住所移転」のように数個生じた場合、登記原因の日付は「年月日住居表示実施、年月日住所移転(最終の住所移転の年月日)」のように、登記原因の種類ごとに最終の年月日を記載して差し支えない。
4-5.同一日に町名変更、地番変更があった場合
4-6.住居表示実施→住所移転→住所移転があった場合
下記のように住所が変更になっている場合の登記名義人住所変更の登記をするときは、登記原因を、最後にしたBへの住所移転及びその日により「年月日住所移転」として申請することができる。
(1) 住所Aから住居表示実施により住所Bに
(2) 住所Bから住所移転により住所Cに
(3) 住所Cから住所移転により住所Bに
これは下記の質疑応答にある事例ですが、その他の質疑応答や先例によれば、登記原因は「年月日住居表示実施」、「年月日住所移転」と併記すべきであるはずです。
この事例が、過去の先例等にある事例と違うのは、最後にしたBへの住所移転により、元々の住所であったB(住居表示実施前はA)に戻ってきていることですが、それだから特別に住居表示実施による変更事項の記載を省略できるということではなく、住居表示実施の後に住所移転があったときにはすべて同じ取り扱いになっていると考えて良いのでしょうか(この点につき、「4-1.住居表示実施と住所移転があった場合」に追記あり)。
ただし、この事例に関していえば、住所Aから住所Bへの変更は「住居表示実施」によるのであり、「住所移転」が原因ではありません(住所AとBは同じ場所)。それにもかかわらず、住所Aから住所Bへの登記名義人住所変更の登記原因を「年月日住所変更」とするのには違和感があります。