抵当権の抹消登記をおこなう際、同一の債権を担保する抵当権が2つ以上の不動産に設定されている場合には、1件の申請により一括して抹消登記をするのが通常です。

わかりやすい例でいえば、住宅ローンの借入をする際、土地と建物に抵当権が設定されたとします。その後、住宅ローンの完済にともなって抵当権抹消登記をするときには、1件の登記申請により土地、建物の抵当権を抹消できるわけです。

しかしながら、現実に抵当権抹消登記をするときには、上記のような単純なケースばかりでなく、同一申請書による一括申請が可能であるか判断に困ることもあるでしょう。そのような場合に、無理に一括申請しようとするのではなく、複数回の登記申請によるとの選択もあります。けれども、下記の先例等に照らし合わせて考えれば、多くの場合で一括申請の可否を判断できるはずです。

1.同一不動産上に登記された数個の抵当権の抹消

2.抵当権設定者(不動産所有者)を異にする共同抵当権の抹消登記

3.抵当権者を異にする数個の抵当権の抹消登記

4.一の申請情報によって申請することができる場合

1.同一不動産上に登記された数個の抵当権の抹消

同一不動産上に登記された数個の抵当権を抹消する場合、登記権利者及び登記義務者並びに抹消の登記原因及びその年月日が同一であれば、同一の申請書で一括申請することができる。

よくある例としては、下の登記事項証明書(一部抜粋)のように、「1番(あ)」、「1番(い)」のように同順位で抵当権が設定されているときです。この場合、「令和2年7月1日解除」のように、抵当権抹消の原因および日付が同一であれば、同一の申請により一括して抹消登記ができるわけです。

なお、この場合の登記の目的は「1番(あ)、1番(い)抵当権抹消」となります。

1番(あ)、1番(い)抵当権抹消

同一不動産上に登記された数個の抵当権及び根抵当権を抹消する場合、登記権利者及び登記義務者並びに抹消の登記原因及びその年月日が同一であれば、同一の申請書によって申請することができる(434号146頁)

2.抵当権設定者(不動産所有者)を異にする共同抵当権の抹消登記

甲所有のA不動産と、乙所有のB不動産に設定されている共同抵当権について、登記原因が同一であれば、甲及び乙を登記権利者として同一の申請書で一括申請することができる。

下記の質疑応答では、共同担保としての抵当権設定登記をした後に、土地の1つについて所有権移転登記がされたことにより、抵当権設定者を異にすることとなっていますが、当初から設定者が異なる場合でも結論は同じだと考えられます。

甲所有のA・B不動産を共同担保として抵当権設定の登記をした後、B不動産について乙に所有権移転の登記がされている場合であっても、同一原因による当該抵当権の抹消は、甲及び乙を登記権利者として、同一の申請書で申請することができる(登研558号155頁)

3.抵当権者を異にする数個の抵当権の抹消登記

抵当権者を異にする数個の抵当権の抹消登記は、抹消の登記原因及びその日付が同一であっても、同一の申請書で一括申請することはできません。

抵当権者が異なるということは、異なる債権者から借入をして抵当権設定をしているということです。この数個の抵当権が同じ日に同じ登記原因により消滅するケースはあまりないでしょうが、この抵当権抹消登記を同一申請書で一括申請することはできないわけです。

同一不動産について、債務者を同じくし、抵当権者を異にする数個の抵当権設定の登記がされており、これらの登記の抹消を申請する場合、抹消の登記原因及びその日付が同一であっても、同一の申請書ですることはできない(登研421号107頁)。

4.一の申請情報によって申請することができる場合

複数の不動産についての登記を、1つの申請情報により申請できる場合について、次のように規定されています。

まず、同一の登記所の管轄区域内にある2以上の不動産について、申請する「登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるとき」であるとし、さらに、申請する登記が、同一の債権を担保する抵当権に関する登記であって、登記の目的が同一であるときとしています。

つまり、登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であって、さらに、同一の債権を担保する抵当権に関する登記であって、登記の目的が同一であるときです。

同一の債権を担保する抵当権であることが必要とされていますが、不動産の所有者(抵当権設定者)が同一であることは求められていません。このことからも、抵当権設定者を異にする数個の抵当権の抹消登記について、同一の申請書で一括申請することができるとの結論になります。

不動産登記令第4条(申請情報の作成及び提供)

申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。

不動産登記規則第35条(一の申請情報によって申請することができる場合)

令第4条ただし書の法務省令で定めるときは、次に掲げるときとする。

(1~9 省略)

10 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記が、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権(以下「担保権」と総称する。)に関する登記であって、登記の目的が同一であるとき。

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