相続登記の実務で役立つと思われる先例等に、必要に応じてコメントを加えました。

1.相続人の同一性を証する書面

2.死者名義への相続登記

3.相続登記の登記原因

4.原本還付

5.除籍等が滅失している場合の相続登記

6.被相続人の同一性を証する情報

7.相続放棄申述受理通知書による相続登記の可否

1.相続人の同一性を証する書面

戸籍謄本による相続人の本籍と、遺産分割協議書に記載した相続人の住所とが異なる場合、戸籍謄本による相続人の氏名及び生年月日と遺産分割協議書に添付の印鑑証明書に記載の相続人の氏名及び生年月日とが同一であるときは、その同一性を確認することができるものとして、別にこれを証する書面として住民票抄本または戸籍の附票の写しを提出することを要しない

相続による所有権移転登記申請について、戸籍謄本による相続人の本籍と遺産分割協議書または民法第903条の規定による特別受益の証明書に記載した相続人の住所とが異なる場合、戸籍謄本による相続人の氏名及び生年月日と遺産分割協議書または特別受益証明書に添付の印鑑証明書に記載の相続人の氏名及び生年月日とが同一であるときは、その同一性を確認することができるものとして、別にこれを証する書面として住民票抄本または戸籍の附票の写しを提出することを要しない(昭和43年3月28日民事三発114)
(コメント)
本籍地と住所が異なる場合、戸籍謄本と印鑑証明書に加えて、本籍地の記載入りの住民票(または戸籍の附票)を取得することにより、相続人の同一性が証明できることとなる。しかし、上記先例により戸籍謄本に記載の氏名及び生年月日と、印鑑証明書の記載とが一致すれば、同一性を証するための住民票等は不要だとされている。

ただし、司法書士の実務においては、絶対に最低限の書類しか用意しない主義であるなら別として、住民票も必要であるのを原則としておいた方が無難。たとえば、印鑑証明書のみを最後にご用意いただく場合など、住民票が無ければ、そのときまで正確な住所が分からないこととなってしまう。

2.死者名義への相続登記

数次相続が生じている場合で、中間の相続が単独で無いときなどに、死亡者のために相続登記をすることがあります。この場合、死亡者の最後の住所を証する書面の提出が必要。

共同相続が数次行われた場合、中間の登記である死亡者のためにする相続登記の申請書には、死亡者の最後の住所を証する書面の提出を要する(昭和32年6月28日民事甲1218)。

死亡してから長い年月が経過している相続人について、最後の住所を証する書面の提出が不可能である場合、最後の本籍地を住所として相続登記申請をすることができる。

共同相続人の1人が全員のため相続登記の申請をなす場合、相続人の内、行方不明の者があつて、住所票抄本又は戸籍の附票の抄本等住所を証する書面が得られないときは、その者の戸籍の附票に住所の記載のない旨の証明書を添付し、その者の本籍を住所として相続登記の申請ができる(昭和32年6月27日民事甲1230)。

3.相続登記の登記原因

被相続人の死亡日時が判明しないため、戸籍上「昭和45年10月1日から10月8日の間に死亡」と記載されている場合の当該被相続人の相続登記の登記原因は、「昭和45年10月1日から10月8日の間相続」とする(登研337号)。

上記のほか、戸籍の記載が「推定平成○年○月○日死亡」とあるときは「推定平成○年○月○日相続」、「平成○年○月○日頃死亡」のときは「平成○年○月○日頃相続」のように戸籍の記載に従うのが原則。

4.原本還付

相続登記の申請の際に、相続関係説明図を提出したときは、登記原因証明情報のうち、戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限り、当該相続関係説明図がこれらの書面の謄本として取り扱われます。

上記より、遺産分割協議書(および相続人の印鑑証明書)、被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)、また、相続人中に相続放棄した人がいる場合の相続放棄申述受理証明書などについては、別に原本還付の手続きをする必要があります。

相続による権利の移転の登記等における添付書面の原本の還付を請求する場合において、いわゆる相続関係説明図が提出されたときは、登記原因証明情報のうち、戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限り、当該相続関係説明図をこれらの書面の謄本として取り扱って差し支えない(平成17年2月25日民二457)。

5.除籍等が滅失している場合の相続登記

相続登記の申請において除籍謄本等が滅失している場合には、戸籍および残存する除籍等の謄本に加え、除籍等の滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書を提供すれば足りる。

かつては、戸籍及び残存する除籍等の謄本のほか、滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書及び「他に相続人はない」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書添付)の提供を要する取扱いとされていまました(昭和44年3月3日民事甲第373)。

しかしながら、上記回答が発出されてから50年近くが経過し、「他に相続人はない」旨の相続人全員による証明書を提供することが困難な事案が増加していることなどを考慮し、「他に相続人はない」旨の相続人全員による証明書の提供を不要にするとの取り扱いに変更されたのです。

相続による所有権の移転の登記(以下「相続登記」という。)の申請において、相続を証する市町村長が職務上作成した情報ある除籍又は改製原戸籍(以下「除籍等」という。)の一部が滅失等していることにより、その謄本を提供することができないときは、戸籍及び残存する除籍等の謄本に加え、除籍等の滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書が提供されていれば、相続登記をして差し支えない(平成28年3月11日民二219)。

6.被相続人の同一性を証する情報

相続登記の申請において、所有権の登記名義人である被相続人の「登記記録上の住所」が「戸籍謄本に記載された本籍」と異なる場合には、「被相続人の同一性を証する情報」の提出が必要。

この被相続人の同一性を証する情報として次のうちのいずれか1つを提供すれば良く、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供は不要。

  • 住民票の写し(本籍及び登記記録上の住所が記載されているもの)
  • 戸籍の附票の写し(登記記録上の住所が記載されているもの)
  • 所有権に関する被相続人名義の登記済証

つまり、被相続人の同一性を証する情報の提出として必ず提出していた除住民票(または戸籍の附票)の代わりに、所有権に関する被相続人名義の登記済証を提出すれば足りることになった。

実際には、除住民票(または戸籍の附票)が保管期間の経過により取得できない場合を除いては必ず提出しているが、所有権に関する被相続人名義の登記済証があれば除住民票等は提出しなくても良いということ。

相続による所有権の移転の登記(以下「相続登記」という。)の申請において、所有権の登記名義人である被相続人の登記記録上の住所が戸籍の謄本に記載された本籍と異なる場合には、相続を証する市区町村長が職務上作成した情報の一部として、被相続人の同一性を証する情報の提出が必要であるところ、当該情報として、住民票の写し(本籍及び登記記録上の住所が記載されているものに限る。)、戸籍の附票の写し(登記記録上の住所が記載されているもの)又は所有権に関する被相続人名義の登記済証の提供があれば、不在籍証明書及び不在住証明書など他の添付情報の提供を求めることなく被相続人の同一性を確認することができ、当該申請に係る登記をすることができる(平成29年3月23日民二174)。

7.相続放棄申述受理通知書による相続登記の可否

相続人中に相続放棄をした人がいる場合、相続による所有権移転登記をする際には、相続放棄した人についての相続申述受理証明書を添付します。

相続の放棄をした者がいる場合において、相続を登記原因とする所有権の移転の登記の申請をするときは、登記原因を証する情報の一部として「相続放棄申述受理証明書」ではなく、「相続放棄申述受理通知書」を提供することはできない(登研720号205頁)

上記質疑応答によれば、「相続放棄申述受理証明書」ではなく、「相続放棄申述受理通知書」を提供することはできないとされています。しかし、「相続放棄申述受理通知書を提供した相続登記の申請は却下できないのではないかと考えられる」との見解もあります(登研735号77頁)。

その理由として、「相続放棄申述受理通知書を登記原因証明情報として取り扱ったとしても、申請どおりの権利変動が生じているか否か、登記官をして形式的に確認させ、あるいは申請情報の誤りを審査し、不実ないし誤った登記の出現を未然に防止するという、登記原因証明情報を提供させる趣旨には何ら支障はない」からだとされています。

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