法定相続人が2人以上いる場合で、相続人全員の遺産分割協議の結果に基づいてするのが、遺産分割協議による相続登記です。

1.遺産分割による相続登記の必要書類

(1) 登記原因証明情報

遺産分割による相続登記の登記原因証明情報となるのは次のような書類です。

・戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)

法定相続人の全員を明らかにするのに必要な戸籍謄本等です。最低でも、被相続人の出生から死亡に至るまでの連続したすべての戸籍謄本等が必要となります。

・被相続人の住民票除票(または、戸籍の附票)

住民票除票は本籍地の記載のあるもの。被相続人の最後の住所が登記簿上の住所と異なる場合などは、被相続人と登記簿上の登記名義人の同一性を証するための住民票除票なども必要。

・遺産分割協議書

相続人全員が署名し、実印により押印します。

・印鑑証明書

遺産分割協議をおこなった相続人全員の印鑑証明書が必要です。とくに期限は定められていませんので、作成から3ヶ月が経過しているものでも差し支えありません。

・相続人の戸籍謄本

遺産分割協議の当事者となった相続人全員の戸籍謄本(または戸籍抄本)。被相続人が死亡した日以後に取得したものでなければなりません。

(2) 住所証明情報

住所証明情報となるのは、申請人となる相続人全員の住民票(または戸籍の附票)です。

(3) 代理権限証明情報

代理人により登記申請をする場合には、代理人への委任状が必要です。

2.遺産分割による相続登記の関連情報

2-1.遺産の分割を受ける人の印鑑証明書は必要か

遺産分割協議書を添付して、相続による所有権移転登記の申請をする際には、その遺産分割協議書へ署名押印した人の印鑑証明書も提出する必要があります。

遺産分割協議書を添付して、相続による所有権移転登記の申請があった場合に、その遺産分割協議者の印鑑証明書の提出を要する(昭和30年4月23日民事甲742)

ただし、遺産分割協議により、遺産の分割を受けることとなった人の押印については、認印でも差し支えないとされています。

相続人A、B、Cの全員が不動産を特定して、これが物件をAが承継取得する旨の遺産分割協議書を作成し、B、Cは印鑑証明書付実印を押印しているが、Aは認印で印鑑証明書の添付がない場合、登記申請書に添付すべき遺産分割協議書となる(登研429号)。
(コメント)
実務においても、不動産を取得する相続人の印鑑証明書は添付不要とされていますが、このような取扱いが認められるのは単独相続の申請人に限られると考えるべきでしょう。そもそもの話として、登記実務での取り扱いばかりにこだわらず、遺産分割協議書へは相続人全員が実印により押印し、印鑑証明書を添付するのを原則としていれば良いわけです。

2-2.遺産分割協議書は複数作成し各別に署名押印しても良いか

遺産分割協議書は、1通の書面に相続人全員により署名押印するのが通常です。しかし、相続人が一堂に会したり、持ち回って署名押印するのが難しいときなどには、同一内容の書面を複数作成し、各相続人がそれぞれ別々の書面に署名押印したものであっても、相続登記の申請は受理されます。

同一内容の遺産分割協議書を数通作成し、それに各自が各別に署名捺印したものであっても、その全部の提出があるときは、遺産分割の協議書とみて差し支えない(登研170号)

下記先例にある事例では、2通の遺産分割協議書の協議内容が異なっていますが、同一内容の遺産分割協議書を複数作成した場合についても、同様に取り扱われると考えて良いでしょう。

遺産分割協議証を2通添付して相続による所有権移転の登記申請があった場合の受否について

亡甲の共同相続人として乙・丙・丁・戊及び己があるところ、

(一) 乙・丙及び丁間の遺産分割協議証に、乙は亡甲所有不動産の全部を取得する。

(二) 戊・己間の遺産分割協議証に、乙は亡甲所有不動産の全部を取得し、丙・丁・戊及び己は遺産の分割を受けない。

旨の記載がある右協議証2通を添付して、乙の単独所有とする相続による所有権移転の登記申請があった場合、共同相続人が住所を異にするため遺産分割協議証の持廻りが不便等から、便宜、1通をもってすることなく2通に作成されていても、結果的には共同相続人の全員が遺産分割の協議に参加し、かつ、同意を得ているものと判断するのが妥当であるので、当該申請はこれを受理して差し支えない(昭和35年12月27日民事甲3327)。

(コメント)
ネット上の記述などを見ると、複数の書面を作成する場合、その書面の表題は遺産分割協議書ではなく「遺産分割協議証明書」とするべきというような意見もあるようですが、少なくとも相続登記の添付書類としてはどちらでも問題ないはずです。

相続登記のページへ >>