遺言者である被相続人が、相続人中の1人に対し、特定の不動産を「相続させる」旨の遺言をしているときに、この遺言書を添付しての所有権移転登記をおこなう場合についてです。

遺言による相続登記の必要書類

1.登記原因証明情報

・遺言書

自筆証書遺言(法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用の場合を除く)など、公正証書遺言以外の遺言については、家庭裁判所の検認済証明書付のものが必要。

・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本

・不動産を取得する相続人の戸籍謄本

被相続人の死亡後に取得したもの。相続分の指定を受けた相続人以外の、共同相続人全員の戸籍謄本を提出する必要はない。

・被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票等)

被相続人の最後の氏名及び住所が登記記録上の氏名及び住所と一致しており、また、被相続人の本籍が登記記録上の住所と同一である場合には不要。それ以外の場合には、被相続人が登記記録上の登記名義人であることが分かる被相続人の住民票の除票(本籍地の記載入り)または戸籍の附票等が必要。

2.住所証明情報

不動産を取得する相続人についての住民票

3.代理権限証明情報

代理人(司法書士)により登記申請する場合には、相続人である申請人から代理人への委任状が必要です。

遺言書の文中に「遺言者の所有する全財産を甲に相続させる。」とあり、登記原因を相続として登記する場合に、相続を証する書面として添付する戸(除)籍謄本等は被相続人の死亡した事実並びに甲が相続人であることが証明できる戸(除)籍謄本等の添付で足りる(登研386号)。

『被相続人の弟である何某に対し次の財産を相続させる』旨記載されている遺言書(裁判所の検認を了している)を添付して、相続登記申請する場合には、相続の開始があったことの証明及び相続分の指定を受けた者が相続開始時において適法な相続人であることの証明のために遺言者等の除籍謄本等の添付を要する(登研458号)。

相続を原因とする所有権移転登記の申請について、検認を経ていない自筆証書である遺言書を、相続を証する書面として申請書に添付してされる場合には、不動産登記法第49条8号(現在の不動産登記法25条9号)の規定により却下する(平成7年12月4日民三4343)。

遺言による相続登記の関連情報

(1) 遺言内容による登記の申請に異議がない旨の陳述者の証明書

自筆証書による遺言書の真正担保についての先例。

登記の申請書に添付された自筆証書による遺言書の家庭裁判所の検認期日の審問調書に、相続人中の1人が、「遺言書は遺言者の自筆ではなく押印は遺言者の使用印ではないと思う」旨の陳述をした旨の記載があるときは、遺言内容による登記の申請に異議がない旨の当該陳述者の証明書(印鑑証明書添付)の添付を要する(平成10年11月26日民三2275)。

(2) 遺言書によっては不動産の特定が不十分な場合

遺言書によっては不動産の特定が不十分な場合、遺言書と併せて「共同相続人全員の申述書(印鑑証明書付き)」を添付すべき。

甲が、「○○リゾートクラブ会員権」を乙に遺贈する。丙を遺言執行者に指定する。」との記載のある遺言書を作成していた場合に、遺言執行者と受遺者との共同申請により、受遺者名義への所有権移転登記を申請する際には、遺言書の他にも、『本遺言書中「○○リゾートクラブ会員権」とあるのは、○県○郡○村字○何番地所在一棟の建物の番号○家屋番号○の建物(以下不動産の表示省略)の所有権を含むものであることに相違ない』旨を記載した甲の共同相続人全員の申述書(印鑑証明書付き)を併せて添付すべきである(登研535号133頁)。

なお、この遺言書中に「会員権の内容である物件の表示」が記載されていれば、上記の共同相続人全員の申述書は不要であり、遺言書のみにより登記が可能。また、物件の表示が明示されているリゾートクラブの入会契約書を添付したり、リゾートクラブから証明書を発行してもらう方法は否定されているので、結局、遺言書により不動産が特定されていない場合には、「共同相続人全員の申述書(印鑑証明書付き)」の添付が必要だとされている。

(3) 遺言者の名だけが自署された自筆遺言証書

遺言者の名だけが自署された自筆遺言証書であっても、遺言者本人を特定する特別の事情がない限り、上記遺言書を添付しての所有権移転登記は受理される。

遺言者の名だけが自署された自筆遺言証書であっても、遺言者本人を明確に示している場合には、これを添付してされた所有権移転登記の申請は、受理される(登研671号213頁)。

上記質疑応答において例示された遺言書の記載は下記のとおり。

       記
     遺 言 書
  土地及び建物のすべてを長男の太郎名義にすること。
   平成十五年十月一日
    太郎 様
            母 花子より 氏の印

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