1.数次相続で中間省略登記が認められる場合

2.順位の異なる相続人が相続する場合

3.最終相続人が1人の場合の相続登記

3-1.遺産分割協議などがおこなわれていない場合

3-2.遺産分割協議がおこなわれていた場合

4.各種の数次相続

4-1.中間が単独相続でない場合(特別受益を含む)

4-2.数次相続の遺産分割協議と一括申請(不動産が複数ある場合

1.数次相続で中間省略登記が認められる場合

数次相続による登記で、中間省略登記が認められる場合は次のとおり。

  1. 中間の相続が単独相続である場合
  2. 遺産分割により中間相続が単独相続となった場合
  3. 相続放棄により中間相続が単独相続となった場合
  4. 他の相続人に相続分のないことにより中間相続が単独相続となった場合
甲死亡により、乙、丙が共同相続人となり、その登記前に、更に乙、丙が順次死亡し、丁が乙の、戊が丙の各相続人となった場合、甲名義の不動産を、直接丁、戊名義にする相続登記は1個の申請することはできない。ただし、単独相続(遺産分割、相続放棄または他の相続人に相続分のないことによる単独相続を含む)が中間において数次行われた場合に限り、1個の申請でさしつかえない(昭和30年12月16日民事甲2670)

2.順位の異なる相続人が相続する場合

下記の先例では、順位の異なる相続人である丙とAが不動産を相続するとの遺産分割協議をおこなっています。

この場合、一件の登記申請によることはできず、まずは亡乙と丙の共有名義にする相続登記をおこなった後、乙からAへの相続登記(乙持分全部移転登記)をすべきだとしています。

数次相続で登記原因を異にする場合

被相続人甲が死亡(昭和25年)し、その直系卑属乙、丙が相続した不動産につき、相続登記未了のうちに乙が死亡(昭和27年)し、その直系卑属A・Bが相続したとき、A・Bが前記丙と共に丙、Aを相続人とする遺産分割協議書を添付して相続登記申請があった場合、遺産分割の協議でAを丙と同順位の相続人とすることはできないから、右協議は、Aは、乙が相続により取得した持分を相続することとしたものと解すべきである。したがって、まず、乙、丙の名義に相続による所有権移転の登記を申請し、次いで、Aの名義に相続による乙の持分の移転の登記を申請すべきである(昭和36年3月23日民事甲691)。

3.最終相続人が1人の場合の相続登記

3-1.遺産分割協議などがおこなわれていない場合

下図の例では、相続開始時には、被相続人甲の配偶者乙および子丙の2人が相続人だったが、相続登記をおこなわないでいるうちに配偶者が死亡しています。この場合、乙の生前に遺産分割協議をおこなっていたというような事情が存在しないときには、甲から丙への直接の相続による所有権移転登記をすることは認められません。

最終相続人が複数の場合には、中間相続が単独であれば、最終相続人に対して直接の所有権移転登記ができるのに対し、最終相続人が1人のときは中間省略登記が認められないわけです。かつては、最終相続人1人による遺産分割協議書(遺産分割決定書)などの書面を添付することで、最終相続人に対して直接の所有権移転登記が可能だったのが、現在では否定されることとなりました。

数次相続で最終相続人が1人の場合の相続登記

甲の死亡により、配偶者乙と甲乙の子丙が共同相続人となったが、相続登記未了の間に乙が死亡した場合において、甲から丙に相続を原因とする所有権の移転の登記をするためには、丙を相続人とする遺産分割協議書又は乙の特別受益証明書等を添付する必要があり、これらの添付がない場合には、乙丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をした上で、乙の持分について丙へ相続を原因とする所有権の移転の登記をすべき(登研758号171頁)。

3-2.遺産分割協議がおこなわれていた場合

上記と同様の相続関係の場合で、乙の生前に、乙と丙の間で丙が単独で甲の遺産を取得する旨の遺産分割協議が成立していた場合、丙が単独で作成した遺産分割協議証明書により、相続による所有権の移転の登記の申請に係る登記をすることができます。

所有権の登記名義人Aが死亡し、Aの法定相続人がB及びCのみである場合において、BとCの間でCが単独でAの遺産を取得する旨のAの遺産の分割の協議が行われた後にBが死亡したときは、当該協議の内容を明記してCがBの死後に作成した遺産分割協議証明書(別紙)は、登記原因証明情報としての適格性を有し、これがCの印鑑証明書とともに提供されたときは、相続による所有権の移転の登記の申請に係る登記をすることができる(平成28年3月2日民二154)。

(別紙)

遺産分割協議証明書

平成20年11月12日○○県○○市○○町○丁目○番○号Aの死亡によって開始した相続における共同相続人B及びCが平成23年5月に行った遺産分割協議の結果,○○県○○市○○町○丁目○番○号Cが被相続人の遺産に属する後記物件を単独取得したことを証明する。

平成27年1月1日

○○県○○市○○町○丁目○番○号

(Aの相続人兼Aの相続人Bの相続人)

C(印)

不動産の表示

(略)

なお、上記先例中で次のとおりその理由が示されています。

遺産の分割の協議は要式行為ではないことから、Bの生前にBとCの間で遺産分割協議書が作成されていなくとも当該協議は有効であり、また、Cは当該協議の内容を証明することができる唯一の相続人であるから、当該協議の内容を明記してCがBの死後に作成した遺産分割協議証明書は、登記原因証明情報としての適格性を有し、これがCの印鑑証明書とともに提供されたときは、相続による所有権の移転の登記の申請に係る登記をすることができる。

4.各種の数次相続

4-1.中間が単独相続でない場合

下図のような相続関係がある場合において、D・EがAおよびBの特別受益者である旨の証明書を添付してC単独の相続による所有権移転登記の申請をすることはできない(登研310号)。

数次相続(特別受益がある場合)

上記の場合、Aの死亡によりBとCが共同相続しますから、この中間相続についての登記を省略して、AからCへ直接の所有権移転登記をすることはできません。

まずは、D・EがAの特別受益者である旨の証明書を添付して、Aの死亡によるBとCへの所有権移転登記をします。続いて、D・EがBの特別受益者である旨の証明書を添付して、Bの死亡によるCへの所有権移転登記(B持分全部移転登記)をすることになります。

4-2.数次相続の遺産分割協議と一括申請

下図のような相続関係で、丁と戊による遺産分割協議により、甲名義のA不動産は乙、B不動産は丙が相続するとの協議がととのったときの相続登記申請について。

数次相続にかかる遺産分割協議と一括申請

この場合、A不動産については、甲から乙に直接の所有権移転登記をすることができる。A不動産は、中間者である乙が単独相続しているので、中間相続を省略して最終相続人への所有権移転登記をすることが可能。そして、その登記原因及び日付は「年月日乙相続(甲死亡の日)年月日相続(乙死亡の日)」と列記する。

また、B不動産についても、同様に甲から戊に直接の所有権移転登記をすることができる。B不動産については「年月日丙相続(甲死亡の日)、年月日相続(丙死亡の日)」と列記する。

A不動産、B不動産の登記については一括申請することはできず、各別の申請情報によらなければならない。それぞれの不動産について、登記原因及び日付が異なるので一括申請できないのは当然。

甲の死亡により、乙・丙が共同相続人となったが、その相続登記の未了の間に、乙が死亡し、丁が相続人となり、更に丙が死亡し戊が相続人となった場合には丁と戊の間で、甲の相続につき遺産分割の協議をすることができる。

この場合に、甲名義のA不動産は乙がB不動産は丙が相続する旨の協議がととのったときは、A不動産については、その登記原因及び日付を「年月日乙相続(甲死亡の日)年月日相続(乙死亡の日)」と列記し、B不動産については「年月日丙相続(甲死亡の日)、年月日相続(丙死亡の日)」と列記して、各別に1個の申請ですることができる(登研544号)。

相続登記(千葉県松戸市の高島司法書士事務所)