遺贈とは、遺言者が所有している財産(不動産など)を遺言により贈与することです。遺産を相続させることができるのは、法定相続人に対してに限られます。そこで、内縁の妻や孫など法律上の相続人ではない人へ遺産を残すために、遺贈がおこなわれることが多いです。

遺贈による所有権移転登記の必要書類

遺言により遺言執行者の指定がされている場合、受遺者を登記権利者、遺言執行者を登記義務者として、共同で遺贈による所有権移転登記の申請をします。

遺言執行者がいない場合、遺言者の相続人全員が登記義務者となる必要があります。そこで、遺言執行者の指定がないときでも、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことも可能です。

なお、受遺者が遺言執行者であるときには、登記権利者兼登記義務者の遺言執行者として、単独で登記申請をすることができます。また、遺言書に遺言執行者の指定がない場合に、受遺者が自らを候補者として家庭裁判所へ遺言執行者選任の申立をすることもできます。

1.登記原因証明情報

遺贈による所有権移転登記の登記原因証明情報は、遺言書、遺言者が死亡した旨の記載のある戸籍謄本(除籍謄本)です。また、受遺者の戸籍謄本も必要です。遺言者と受遺者の死亡の前後が遺言の効力にかかわることがあるからです。

遺贈を原因とする所有権の移転の登記を申請する場合、申請情報と併せて提供すべき登記原因証明情報は、登記名義人の死亡を証する情報のほかに、遺言が要式行為であることから遺言書が必要(登研733号)

2.登記済権利証、または登記識別情報通知書

遺言者が不動産の所有権を取得したときの、登記済権利証(または登記識別情報通知書)です。

3.遺言執行者の印鑑証明書

遺言執行者の印鑑証明書は、登記申請をする時点で発行後3か月以内のものが必要です。

4.受遺者の住民票(または、戸籍の附票)

受遺者の住民票(または、戸籍の附票)。住民票は本籍地の記載を省略しないでください。

5.固定資産評価証明書

登記をする年度の固定資産評価証明書です。たとえば、令和2年4月1日から、令和3年3月31日までの間に登記するのであれば、令和2年度のものを使用します。

6.代理権限証明情報

遺言書により遺言執行者を指定している場合、遺言執行者の資格を証するため、遺言書、および遺言者が死亡した旨の記載のある戸籍謄本等を添付します。

家庭裁判所により遺言執行者が選任された場合には、遺言執行者の選任審判書を添付します。このときは、遺言者の死亡を証する書面(戸籍謄本など)は添付不要です。また、遺言書は遺言執行者の選任審判書だけでは、遺言の内容が不明な場合のみ添付が必要です。

代理人(司法書士)により登記申請する場合には、受遺者および遺言執行者から代理人への委任状が必要です。

7.その他

遺言者の登記簿上の住所と、戸籍謄本に記載の本籍とを関連づけるため(遺言者がその不動産所有者であることを証するため)、遺言者の住民票除票(または、戸籍の附票)も添付します。

遺贈による登記に関する先例等

遺贈者の登記名義人表示変更の要否

遺贈による所有権移転をする際、遺贈者の登記簿上の住所と、最後の住所とが異なる場合、その前提として所有権登記名義人住所変更(更正)の登記をする必要がある。

Aが遺言により、その所有する土地を甲に遺贈する旨定めて死亡したため、その遺言執行者乙は甲と共同で所有権移転登記を申請することとなったが、Aの登記簿上の住所と死亡時の住所は一致していない。このような場合、住所の変更又は更正を証する書面を添付することにより、所有権登記名義人の表示変更又は表示更正の登記を省略することはできない(登研401号)

遺言執行者の指定のある遺贈による所有権移転登記の前提としておこなう、登記名義人住所変更登記の申請人は、遺言執行者または遺贈者の相続人のいずれでも良い。また、受遺者も債権者代位により申請することができる。

受遺者が申請する場合は債権者代位によるが、遺言執行者、受遺者は自らが申請人となり登記申請をする。

遺言執行者の指定のある遺贈による所有権移転登記の前提として、当該不動産の表示変更の登記の申請人は、遺言執行者又は遺贈者の相続人(相続人全員又は保存行為としてその1人)のいずれでも差し支えなく、また、受遺者も債権者代位により申請することができる(登研145号)。

代位による所有権登記名義人住所変更の登記申請書は次の通り。

登記申請書

登記の目的  所有権登記名義人住所変更
原因     平成○年○月○日 住所移転
変更後の事項 住所 千葉県松戸市松戸○○番地の○
被代位者   千葉県松戸市松戸○○番地の○ A
代位者    千葉県松戸市根本○○番地 B
代位原因   令和○年○月○日遺贈による所有権移転登記請求権
添付情報   登記原因証明情報 代位原因証明情報 代理権限証明情報
(以下省略)

遺言による相続と包括遺贈があった場合の登記

遺言公正証書により、「相続人Aに全財産の2分の1の財産を相続させ、残りの2分の1についてはXに贈与する」旨の遺言がされた場合、どのように登記申請をすべきか。

この場合、まずはXに対し持分2分の1についての遺贈による所有権移転をした後に、Aに対し残りの2分の1について相続による所有権移転登記をする必要がある。

持分の一部についての相続による所有権移転登記(所有権一部移転登記)は認められないので、遺贈による所有権移転登記をおこなわずに、Aが持分2分の1についての相続による所有権移転登記をすることはできない。

なお、遺贈による所有権一部移転登記は、受遺者Xと、遺言者の相続人全員(または遺言執行者)の共同申請による。また、相続による持分全部移転登記は、相続人Aの単独申請による。

被相続人名義の不動産について、全財産の2分の1は相続人Aに相続させ、残りの2分の1はXに贈与する旨の遺言書を添付し、Aより所有権の2分の1につき相続を原因とする所有権の移転登記の申請があった場合には、受理すべきではない(登研523号)

受遺者名義での所有権保存登記

所有権保存登記がされておらず、表題部所有者が被相続人となっている不動産が遺贈された場合、受遺者名義で所有権保存登記をすることはできません。遺贈による登記は、受遺者と、遺言者の相続人全員(または遺言執行者)の共同申請による所有権移転登記によらなければならないからです。

そこでまずは、遺言執行者により、遺言者の相続人全員の名義で所有権保存登記をするか、もしくは、遺言執行者または遺言者の相続人全員により、遺言者である表題部所有者の名義で所有権保存登記をし、その後に受遺者に対して遺贈による所有権移転登記をします。

なお、被相続人名義での所有権保存登記は、相続人の1人から相続人全員のために保存行為として申請することができるが、共同相続人の1人の相続分のみについてすることはできない。

表題部に被相続人が所有者として記載されている不動産の遺贈による登記は、被相続人名義に保存登記をした上、遺贈による所有権移転登記をなすべきである。また、共同相続人の1人の相続分のみについて、その保存登記をすることはできない(登研484号)。